第3章

 永人が主寝室へと向かう足音が聞こえ、今夜がついにその日なのだと悟った——彼が伊佐美に二百万円のネックレスを買い与えた、桜花芸術センターの慈善舞踏会の日だ。

 私は客間のベッドに腰掛け、自分で選んだシンプルな黒のドレスを見つめていた。指先がひどく震えて、背中のファスナーを掴むことさえできない。

 大丈夫よ、百合子。今夜を乗り切るの。

 「今夜の君が、会場で一番美しい」廊下の向こうから、永人の蕩けるように甘い声が聞こえてくる。「このネックレスは、まるで君のために作られたかのようだ」

 伊佐美の忍び笑いが聞こえ、胃の腑が締め付けられる。「あなたはいつも、私が言ってほしい言葉をくれるのね」

 衣擦れの音、滑らかに上がるファスナーの音、そして、間違いなく交わされるキスの音。

 一方の私は、この震える手のせいで、自分でドレスを着ることさえままならない。

 三度目の挑戦で、ようやく半分まで上げることができた。それで十分だろう。どうせ今夜のパーティーで、私のことなど誰の目にも留まりはしないのだから。

 私たちの車が到着すると、桜花芸術センターは光の洪水に包まれていた。レッドカーペットにはカメラマンがずらりと並び、星都のセレブリティが高級車から降り立つたびに、無数のフラッシュが焚かれる。

 最初に降りたのは、特注の燕尾服に身を包んだ永人だった。彼は優雅に伊佐美へと手を差し伸べる。彼女は銀色のシルクドレスをまとってふわりと降り立ち、あの二百万円のネックレスが、すべての光を独り占めするかのようにきらめいた。

 私は最後に、誰にも気づかれずに車を降りた。

 「黒崎さん! 今夜は星野さんとのご関係を、公式に発表される日ですか!」と、ある記者が声を張り上げた。

 永人は伊佐美の腰を抱く腕に力を込め、完璧な笑顔を見せた。「伊佐美と私のことは、私たちの関係性そのものに語らせたいと思っています。彼女の才能が、何より雄弁ですから」

 伊佐美が可憐に頬を染めて彼に寄り添うと、カメラのシャッターが一斉に切られた。

 「本当に、見惚れるほどお綺麗ですね」誰かが感嘆の声を漏らす。「黒崎さん、素晴らしいお目利きだ」

 その時、別の記者が私の方を指さした。「それで、黒崎奥様は、近いうちにまた舞台に復帰されるご予定は?」

 永人の表情が、氷のように冷たくなった。その声は平坦で、感情のないものに変わる。「百合子は今、別のことに専念しています。ダンスは……もう過去のことです」

 過去のこと。まるで私が、遠い歴史上の遺物であるかのように。

 すぐに、ひそひそと囁きが始まった。

 「ずいぶん、やつれて見えるわ……」

 「昔は有名だったんでしょう? 今は見る影もないわね」

 私はなんとか唇の端を歪めて微笑みらしきものを作り、震えを隠すために両手をきつく後ろで組んだ。

 帝都歌劇場の中は、クリスタルのシャンデリアがすべてを黄金色の光で照らし出していた。東都のセレブリティたちがシャンパンを片手に談笑し、その軽やかな笑い声が、華麗な装飾の壁に反響している。

 水を一口飲もうとしたとき、不意に足の力が抜けた。大理石の柱に寄りかかってなんとか体勢を立て直したが、何人かが私のよろめきに気づいたようだった。

 永人がすぐに現れたが、その手つきは冷たく、他人行儀だった。「しっかりしろ、百合子。ここで恥をかかせるな」

 恥をかかせるな、か。そうね。まるで、私の存在そのものが恥だと言わんばかりに。

 十分後、伊佐美がふらりと体を揺らし、優雅に額に手を当てた。「永人さん、少しめまいが……」

 変化は、一瞬だった。永人の意識のすべてが、彼女へと集中する。

 「どうしたんだ、大丈夫か?」彼は燕尾服の上着を脱ぎ、彼女の肩にかけた。「座って。誰か、彼女に温かい水を——冷たいのじゃなく」

 「たぶん、少し疲れているだけです」伊佐美は弱々しく言い、彼の胸に寄りかかった。

 「家に帰ろう。君には休息が必要だ」その声には、心からの心配と、真の優しさが滲んでいた。

 私に恥をかかせるなと言った、その同じ男が、伊佐美が少し疲れたと感じただけで、この盛大な慈善舞踏会を抜け出そうとしている。

 そのあまりに皮肉な状況に、笑い出したかった。あるいは、叫び出したいか。たぶん、その両方だ。

 午後九時、先ほどの「めまい」にもかかわらず、伊佐美は舞台に立つには十分元気だと主張した。

 「観客の皆さんをがっかりさせるわけにはいきません」彼女は健気にそう言って、永人の称賛をさらに勝ち取った。

 照明が落ち、彼女は舞台へと上がった。

 彼女は、まるでそのために生まれてきたかのように、私の振り付けを舞う——すべてのエクステンションは完璧で、すべてのターンは制御されている。観客は、美と死が完璧な動きの中で絡み合う『瀕死の白鳥』へと変貌する彼女に、完全に心を奪われていた。

 これは私の作品。私の名を世に知らしめた、私の魂そのもの。それを、彼女は美しい衣装のように、軽々と身にまとっている。

 「素晴らしい!」私の後ろで誰かが囁いた。「元の踊り手を超えている」

 永人は最前列に座り、その視線は一度も伊佐美の姿から離れなかった。その顔に浮かんでいるのは、純粋な崇拝の表情——かつて私が、まだこの身体に裏切られることなく踊れていた頃、彼が私だけに向けていたのと同じ表情だ。

 最後のポーズは、永遠に感じられるほど長く続いた。そして、観客の熱狂が爆発した——総立ちの拍手、舞台に投げ込まれる無数の花束、最前列の観客たちの顔を伝う涙。

 伊佐美は優雅にお辞儀をし、永人が客席から投げた一際大きな花束を見事に受け取ると、勝利に輝く笑みを浮かべた。

 私は隅の椅子に座り、震える手を抑えようと肘掛けを強く握りしめ、無理やり周りに合わせて拍手を送っていた。

 楽屋裏の喧騒にもかかわらず、伊佐美はすぐに私に気づき、勝利の輝きに顔を上気させながら、滑るようにこちらへやってきた。

 「百合子さん!」彼女の声は蜜のように甘い。「見ていてくださって、本当に嬉しいです。どうでしたか? なんていうか、オリジナルの方として、あなたの意見が私にとっては何よりも大切なんです」

 「オリジナル」というその言い方は、まるで私が時代遅れの過去の遺物であるかのように響いた。

 「……ええ、とても美しい踊りだったわ」なんとか声を絞り出した。

 「でも、技術的な面は? 感情の解釈についてはどうでした?」彼女は目を輝かせながら食い下がった。「あなたの偉大な作品に、ちゃんと敬意を払えているか確かめたいんです」

 周りの誰もが、固唾をのんで私たちのやり取りを見守っている。喉が、紙やすりのようにざらついていた。

 「今は、あまり体調が良くなくて、感想を言える状態じゃ……」

 「あら」伊佐美は、わざとらしくがっかりした顔を見せた。「観客が私のバージョンの方を気に入ったから、お怒りなんですの?」

 その言葉は、平手打ちのように私を打った。私たちの周りの会話が、ぴたりと止まる。

 「そんなことじゃ——」

 「彼女の嫉妬でお前の素晴らしい夜を台無しにするな、伊佐美」いつの間にか隣にいた永人が、氷のように冷たい声で言った。「取って代わられることに耐えられない人間もいるんだ」

 取って代わられる。その言葉が、腹を殴られたかのような衝撃となって私を襲った。

 「分かりますわ」伊佐美は上辺だけの同情を浮かべて言った。「自分より若い子が、昔の自分の演目を踊るのを見るのは、さぞお辛いでしょうね」

 昔の自分の演目。まるで私が、何の価値もない過去の遺物であるかのように。

 息が、できなかった。落ちぶれた元スターが、新しいプリンセスに完膚なきまでにやり込められるのを、誰もが見ていた。

 「失礼します」と私は囁き、その場から逃げ出した。

 その夜の残りを、私は車の中に隠れて過ごした。永人と伊佐美が星都のセレブリティたちと交流する様子を、スモークガラス越しに眺めながら。

 ようやく二人が出てきたのは午後十一時。伊佐美は勝利の余韻に輝き、永人の腕は片時も彼女の腰から離れなかった。

 家までの帰り道は、前の席で交わされる二人の囁き声以外、重い静寂に包まれていた。

 午後十一時半。永人からのマッサージの約束を取り付けた伊佐美が主寝室に引き上げ、家はようやく静まり返った。

 私がリビングルームで暖炉の火を見つめて座っていると、戸口に永人が現れた。蝶ネクタイは解かれ、その髪は伊佐美の指で乱されている。

 「どうだ?」彼は冷ややかに言った。「今夜はどう感じた? 最初にお前に約束した通りだ——これは、ほんの始まりに過ぎない」

 私の中で、何かがぷつりと音を立てて切れた。

 「どうして……?」かろうじて、囁きのような声が出た。「どうして、そんなに……酷いことができるの?」

 「酷い?」彼は苦々しく笑った。「酷い、だと? お前こそ、俺がお前にとって力不足だと言ったじゃないか——あれこそが、残酷そのものだった」

 「そんなことじゃなかった——」

 「ふざけるな!」彼の声が、部屋中に爆発した。「お前は、俺の出自は関係ないと言った。その舌の根も乾かぬうちに、もっといい男が現れた途端、俺を捨てたじゃないか!」

 「あなたは分かってない——」

 「完璧に分かってるさ! お前は皆の前で俺のプライドをズタズタにした。俺をゴミ屑のように扱った。俺がまるで、何の価値もない存在であるかのように思わせたんだ!」

 ほんの一瞬、彼の顔に何かがよぎった——私が見逃しそうになるほど、一瞬の痛みの閃光。だが、彼の表情はすぐにまた硬化し、冷たい仮面が元の位置に戻る。

 「お前は俺を壊したんだ、百合子。だから今度は、お前がその気持ちを味わう番だ」

 「あなたを傷つけようなんて——」

 「だが、傷つけた!」彼の声は凍てつくように冷たくなった。「お前は俺の心をズタズタに引き裂いたんだ。そして、お前に言った通り——伊佐美がお前のすべてを奪っていくのを、お前はただ見ていることになる」

 「私はそんなつもりじゃ——」

 「もういい」彼は階段の方へ向き直った。「ようやく分かってきたんじゃないか? 打ちのめされるってことが、どんな気持ちか。これはまさしく、俺が起こると約束したことだ」

 彼は戸口で立ち止まり、振り返ろうともしなかった。

 「それだけの価値があったといいな、百合子。なぜなら、これがこれからの、お前の人生だからだ」

 階段を上る彼の足音が、死刑宣告のように響いた。

 午前三時。精神的な疲労で頭がくらくらし、ふらつく足で洗面所へ向かった。

 その時、私はそれを見てしまった。

 洗面台の、血。白い陶器に飛び散った、鮮やかな赤い滴。

 血を、咳き込んでいたのだ。病気の進行が、早まっている。私にはもう、時間がない。

 壁を通して、二階から永人の声が聞こえてきた。「何も問題ないさ、おやすみ」

 彼にとっては、何も問題ないのだ。彼は復讐を遂げ、完璧な新しいダンサーを手に入れ、彼の帝国を築き上げている。

 だが、私は死にかけている。

 午前四時。私は震える手で化粧台の前に座り、日記帳を開いた。

 [一二八日目:永人は記者たちの前で、私のことを『引退した元ダンサー』と紹介した。私が『取って代わられることに耐えられない』のだと、皆に言い放った。今夜はほんの始まりに過ぎない、とも。

 洗面台で血を見た。彼は、私を徹底的に苦しめるつもりだ]

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